K美のマンションの玄関についた。あらかじめ聞いてあった部屋番号は405。エレベーターで4階まで上がった。インターホンを鳴らすとすぐに和美が出てきた。
「入って」
部屋に入って少しお酒を飲んだ後、どちらからともなくそんな雰囲気になり私たちはエッチをした。
今までU美やM樹とセックスをする機会があったけど、実際に膣に挿入することができなかった。
だからこの日もダメかもしれないと思っていた。
でも今回はあっけないほど簡単にペニスが膣にすんなり入っていった。K美が今までの女性よりもセックスに慣れていたのか、濡れやすいタイプでペニスが入りやすかったのかはよくわからないけれど、とにかく生まれて初めて女性の膣にペニスを挿入することができた。
だけど・・・、
膣の中は何も感じなかった。
もちろん膣にペニスを入れているという感覚はある。
でも、ひっかかりが無いというか、気持ちよくなる要素が何もない感じだ。
せっかくセックスをしているのに射精するどころか、まったく気持ちよくないから勃起も不十分で萎えてくる。
一生懸命腰を動かした。汗がどんどん出る。上になった私の体中から汗がK美の上にぽたぽたとしたたり落ちた。二人とも汗だくになった。
気がつけば窓の外が明るくなってきていた。出勤時間も迫ってくる。ぎりぎりまで粘ったけれど結局射精は出来ずにあきらめてシャワーを浴びた。シャワーを浴びながらひどく自分が情けなかった。
「じゃあ、また。」
そう言ってK美の部屋を出た。
マンションの玄関を出た。太陽の光がやけに眩しかった。通りに出るともう朝の喧騒が始まっていた。さっそうと会社へ向かうサラリーマンやOL。学校へと急ぐ学生たち。車のゆきかう音。
もう家に帰っている時間はないから、そのまま会社へと向かわなければならない。
一晩中運動をしていて眠っていないんだ。どっと疲れが出る。駅へ向かって歩く足取りは重かった。
その日、確信したことがあった。
私は膣内射精障害なのだ。
もちろんその時は、膣で射精がうまくできないというこの症状の正確な名前は知らなかった。名前は分からなかったけれど自分は男として不能なのだと感じた。今振り返ってみるとなるべくしてなったのだ。小学生のころから続けてきた床オナニーのせいでセックスをする前から私はすでに膣内射精障害になってしまっていた。
20年以上前の話でインターネットはまだ無い。携帯すらなかった。
悩みを検索窓に打ち込めば答えがすぐに見つかる便利な時代じゃなかった。
情報量は極端に乏しかった。
私はこんな特別な事情は自分だけだろうと思った。
セックスができない男。
一人前の男と呼べない人間がそこにいた。
地下鉄の階段を下りていった。
人ごみに紛れた。
みんなは「まとも」なんだろうな。なんで俺だけこんなことに。
童貞を卒業した喜びはなかった。
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